【かさこさん(女性)15才の失恋体験】
中学3年生の時の話。
桜満開の4月に、私は家の都合で転校した。
「友達出来るかな」「仲良くなれるかな」「良い思い出つくれるかな」「笑って中学校を卒業できるかな・・・」
不安と期待で、前日は良く眠れなかったことを今でも覚えている。
転校初日、担任の先生に連れられて言われるままに教室に入る。
クラスメイト達の好奇な目。
「かさこです。よろしくお願いします。」
絞りだしたような声を出すのが精いっぱいだった。
それから数日、どうやら私は新しい学校の中では派手な見た目だったらしく
怖がって全然誰も話しかけてくれない!
慣れない空気、慣れないクラスメイト、慣れない廊下、慣れない教室・・。
人生で初めての何とも言えない居心地の悪さ。
寂しかった。
いつも友達に囲まれていたのに。毎日たくさんお喋りして笑っていたのに。
今では自分の机の椅子にくっついたまま、顔も体も動けない。
そんなある日、急に話しかけられた。
「ねえ、名前なんていうの? 俺Yっていうんだ、よろしくね!」
下を向いていた顔を声のほうに上げた。
知らない男の子だった。
「あ、かさこです・・」
「かさこちゃんね! よろしくね!」
キラキラした笑顔だった。友達と楽しそうに教室を出ていく彼の背中をずっと見ていた。心の中で彼の名前を忘れないよう繰り返しながら・・。
それが私とY君の最初の出会いだった。
それからは毎日、休み時間に私のクラスに来ては、「ねえ、名前覚えてくれた?」
「学校慣れた?」などたくさん話しかけてくれた。
嬉しかった。話しかけてもらえるのが。気兼ねなく接してくれるのが。
Y君のおかげで話すことに慣れてきた私は、クラスメイトとも話せるようになり、
友達も出来て、気づいたら新しい学校がとても楽しくなっていた。
次第に私とY君はみんなの噂になっていった。
そんなある日Y君はいつものように私のクラスに来て、(お、話しかけられるかな?)と思ったら、私の前に来て私の顔をじっと見た。
そして「可愛いね!」と言った。
生まれて初めてだったのだ。男の子に‘可愛い’なんて言われたの。
昔から男友達が多くて、一緒になって泥だらけで遊んでいた私は、女の子として‘可愛い’なんて言われたことなかったのだ。
初めて言われた。初めて女の子として見てもらえた気がした。
そして初めて、男の子を男の子だと意識した瞬間だった。
たったそれだけで、私はY君に恋をした。
今まで興味なかった、私とY君の噂が誇らしく感じた。
景色がキラキラ輝いて見えた。
季節は春。桜がより一層咲き誇ったように感じた。
毎日話をしたり、一緒に帰ったり。それだけで十分幸せだった。
それ以上は何も求められないくらい楽しかった。
もう周りの私とY君の噂は噂ではなく公認の仲となり、私はもちろんY君も否定しなかった。
付き合うのも時間の問題だと、人生初の彼氏はY君だと信じて疑わなかった。
毎日楽しくて、恋に恋して、大好きで仕方なかった。
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だけど、次第にY君との関係が変化していった。
私たちは中学3年生。高校受験真っ只中だった。
時代は16年前。携帯電話が普及し始めた時だった。
Y君からのメールが来れば、勉強そっちのけで妄想にふけった。
可愛いと言われれば、その度に有頂天になった。
でも、メールを始めたころはお互いを知り合うような内容だったのに、だんだん受験の話一色になっていった。
友達から聞いた話で、Y君は頭が良くてレベルの高い高校を受けるために勉強を頑張っているのだと知った。
一方私は勉強が苦手で、高校受験をあまり深刻に考えていなかった。
だから、Y君から受験の真面目な内容のメールが来ても、楽天的な返信しかしなかった。
正直。受験なんかよりY君への恋心のほうが私にとっては大事だった。
でも。Y君は違うらしい。子供の私もその微妙な気持ちのすれ違いは感じていた。
なんとなく話す機会が減った気がする・・・
なんとなく素っ気ない気がする・・・
メールの返信が少なくなった気がする・・・
そんな不安な日々が続いたある日、Y君からメールにはこう書かれていた。
「受験が終わるまでは恋愛する気も彼女つくる気もないんだ。」
・・え?
彼女つくる気ないって何?
ていうか、恋愛する気もないって・・じゃあ、今までは何だったの?
好きじゃなかったってこと?
私だけだったの?
季節は冬。
急に寒くなった気がした。
それから私はなんとかY君との恋を実らせたい一心で、というより今までの二人の関係を信じたくて積極的にアタックした。
学校で見かければ、用が無くても話しかけた。
メールも今までと違い、受験勉強を応援するような励ましのメールを送った。
どうか・・この気持ちが届きますように・・
でもY君からは変わらず「勉強で忙しいから」「彼女出来ても今は勉強優先になっちゃうからつくる気はないよ」だった。
私は負けじと「でも彼女いたほうが励まし合ったり出来るよ!」「大変な時期だからこそ恋人がいると支えになって良いと思う!」とポジティブ全開というか、完全に自分の意見を押し付ける内容を送り続けた。
その良かれと思った一方的な押しつけが、思春期の彼にとっては重荷になるなんて、当時の私には分からなかった。
そしてある日、友達に言われた。
「Y君がかさこちゃんとは考え方が違う、合わないって言ってたけど何かあったの?」
あぁ、そうか。
伝わらなかったのか。
その一瞬は悲しいというより、怒りのほうが湧いてきてしまった。
あんなに励ましたのに!って。
だから勢いに任せて言ってしまったのだ。
「こんなに仲良くしてるのに、彼女つくる気ないとか!私のことどう思ってるの? ハッキリして!」と。
(好きだと言って!)そう心の中で叫んだ。
でもY君は言った。
「ごめん」と。
たった一言。たったそれだけだった。
その時ようやく分かった。失恋したのだ、と。
家に帰ってから布団に突っ伏して泣いた。
泣けば泣くほど今までの思い出が次々と出てきた。
Y君の笑顔が、私を見る優しい目が、声が。
そしてそれに恋をしている自分の幸せそうな笑顔が。
それが辛くて泣きながらY君からのメールを全部消した。
メールと一緒に頭の中の思い出も消えてしまえばいいのに。
今までキラキラ輝いていた景色が、急に悲しいものになった気がした。
二人で話した廊下は、急に二人の気まずい場所になった。
たった一人への恋心一つで景色が変わる。
そうか。これが恋か。これが失恋か。
Y君の「受験が終わるまでは」の言葉を受け入れて、受験が終わるまで待てば良かったのだ。
たったあと3か月くらいの話だ。
だけどそれが、それだけがどうしても出来なかった。
大人になった今の私にとっては、3か月なんて一瞬の出来事。
でもあの頃の私には、たった3か月が永遠のように長く感じられた。
Y君のことが大好きだった。
大好きだったからY君のためなら何でも出来た。
でも大好きだったから待つことだけは出来なかった。
本当に子供だった。
それから、友達に話しながら泣いて、流行の失恋曲を聴いては泣いて。
泣いて泣いて、泣いた。
私の代わりに怒ってくれる友達と話しをしているうちに、だんだん笑いながら話せるようになった。
少しずつY君とも今まで通り話せるようになっていった。
寂しくなってしまった景色も、大切にしようと思えるようになった。
寂しくなってしまった景色も、大切にしようと思えるようになった。
子供だったから失恋したけど。子供だったから(自分の何が悪かったのだろう)なんてことは考えなかったから良かったのかもしれない。
初めての恋心、大切にしようと心から思った。
今でもY君が言ってくれた人生初の「可愛い」は私の支え。
オシャレをした時、人に優しくした時、Y君が褒めてくれる気がするのだ。
「可愛いね」って、あのキラキラした笑顔で。
本当にありがとう。